X68000 FDDメンテナンス方法

ツインタワー型(マンハッタンシェイプ)X68000の5.25インチ・フロッピーディスクドライブのメンテナンス方法です。メカの再調整が必要になるような完全分解はせずに通常レベルの分解にとどめ、クリーニング、電解コンデンサーの交換、グリスアップを行います。

作業する際には事前に最後まで読み、流れや注意点を把握しておくことをお勧めします。

電子回路の基板は複数のタイプがありますが、メカ部分の作りは初代X68000用から最後のX68030まで大きな違いはありません。横型筐体のX68000 PROのFDDは異なりますので、参考にならないと思います。

 

1. アルミ製のカバーを取り外した初期状態です。

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2. 磁気読み取りヘッドが写真の位置にあることを確認します。
ディスクセンター側 (写真右側) にヘッドがシークされた状態の場合は、ヘッドを外周側へ動かします(方法は次の写真で説明)。そうしないと部品が引っかかってメカの分離が難しいです。

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ヘッドの動かし方です。
一つは、電源 (5Vと12V) を接続することです。ドライブが生きていれば自動的にヘッドが外周のポジションにリセットされます。
それができない場合は手で動かします。ギヤに噛む2本の金属棒を、一方の手でラジオペンチを広げる方向に使って上下に広げながら、もう片方の手でヘッドを写真の左方向へ動かす方法がやりやすいようです。慎重にギヤの一山ずつ動かしていくと良いです。
他には、ラジオペンチを2本使い、金属棒を1本ずつ掴んで上下に広げながら左方向へ引っ張る方法もあります。
グリスで滑るため、勢い余ってメカや基板を傷つけないように気をつけます。

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3. 基板に刺さっているフラットケーブルを二箇所外します。引っ張るだけで抜けます。引きちぎらないように注意します。

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外したケーブルを傷つけないよう注意しながら、裏側へ抜き取ります。

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X68000初代 (CZ-600C) のドライブは、さらに一箇所ケーブルを抜きます。

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4. ドライブユニット固定用の金具を取り外します。反対側にもありますが、取り外せません。

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5. 黒いプラ製の部品を取り外します。スプリングの片側を外して、ねじを緩めて外します。スプリングと小さなスペーサーを失くさないように注意します。このねじは長さが他のものと違うため、入れ替わらないようにします。

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6. メカユニットを取り外します。残りのねじ5本を外します。

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7. ユニットを数ミリ持ち上げて、矢印の方向に少しずつずらして行きます。

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裏側では、カムのコロを支える金属部品が矢印方向へ外れていきます。

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ヘッド周りの干渉に気をつけながら、慎重にずらします。

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この辺りまでずらせば、持ち上げて分離できます。

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8. 分離できました。黒いプラ製の細長いスペーサーも外しておきます。向きを覚えておきます。二つは同じ物なので入れ替わっても良いです。

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9. 制御基板を分離します。ケーブル2箇所(3本)を外します。元の状態をよく観察しておきます。

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薄板を慎重に抜き取ります。

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10. 反対面のケーブルを5箇所外します。

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このコネクターは固いので慎重に外します。ラッチを細いドライバーで押すと良いですが、滑りやすいので怪我に気をつけます。

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11. ねじ4本とスペーサーを外して制御基板を取り外すと、このようになります。
分解はここまでにしておきます。これ以上の分解は通常のメンテナンスなら不要ですし、工場で調整済みのマイクロスイッチ固定位置やモーターの軸が狂うことにつながります。

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ねじや細かい部品は、このような単位で六つに整理しておけば区別できます。ドライブ1台分です。

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X68000本体電源ユニットの電解コンデンサー液漏れにより、電解液がケーブルを伝ってFDDの電源コネクター周りを汚していることがあります。そのために制御基板を水と洗剤 (キッチンマジックリン等) で丸ごと洗浄するのも良いですが、天日干しを丸一日するなど、十分に乾燥させる必要があります。
ただし、このFDDの基板は洗浄に比較的強いとは思いますが、推奨するわけではありません。また、電解コンデンサーには洗浄不可のものもあるため (データシートに記載あり)、コンデンサー交換より先に洗浄します。

 

12. メカと基板を清掃します。
時間をかけて行う作業です。最初にピンセットで大きな埃の塊を丁寧に取り去っておき、綿棒やティッシュキムワイプなどで全体を乾拭きしていくのがおすすめの方法です。通常はこれで十分に綺麗になります。古くなったグリスも拭き取ります。
アルコールの使用は埃を十分に取ってからにしないと拭き跡が残ります。エアダスターは埃を奥に吹き込んでしまいますので、お勧めしません。

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モーター基板とメカの隙間は綿棒を差し込んで乾拭きします。ベビー用の細い綿棒も役立ちます。

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このような隠れた場所やローラーの周りに埃が溜まっていますが、特にきれいにしておきたい部分です。ピンセットや綿棒で丁寧に埃を取ります。

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磁気ヘッドを軽く持ち上げながら、アルコールをつけた綿棒で優しく汚れを拭き取ります。

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13. 電解コンデンサーを交換します。モーター基板は取り外さないで作業できます。同時に検知用のLEDを清掃します。

数タイプの基板があり、この写真のタイプはC6:0.1μF 50V, C7:22μF 16V, C8:0.47μF 50V です。

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C17, C19 100μF 16V は裏面に付いています。表側のフットプリント(外形)表示が点線になっています。

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C10, C24, C26, C2x(番号が隠れて見えず)  10μF 16V x4個です。

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通常サイズの電解コンデンサーでも、寝かせれば取り付けられます。
緑の丸で示すLEDの汚れを落としておきます。

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0.1μFと0.47μFの電解コンの手持ちがなく、積層セラミックコンデンサーを使いました。これでも問題なく動作しています。
緑の丸で示すLEDを拭いて汚れをとります。

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X68000初代のFDD
100μF 16V x4
22μF 16V x5
10μF 10V x1
1μF 50V x1
1μF 50V バイポーラ x1

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同じく初代のFDD  10μF 16V x3

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別のタイプの基板です。部品番号も極性も表示されていません。コンデンサーを取り外す前に静電容量と極性の向きをメモしておきます。
100μF 16V x1
22μF 16V x1
10μF 16V x1
1μF 50V バイポーラ x1

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表示なし基板の部品面です。コンデンサー交換後。

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14. 緑で示す穴は光センサー (フォトダイオード) がありますので、埃などの汚れを取ります。
青で示す箇所にはグリスを塗ります。先に劣化したグリスを綿棒で拭き取ります。

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15. 他のグリスアップ箇所も古いグリスをできるだけ拭き取っておきます。そして手にグリスが付いて塗り広げてしまわないように新しいグリスを塗るのは後回しにして組み立てます。
基板を取り付けてケーブルを接続します。
黒く細長いスペーサー2個を乗せます。

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16. この位置にメカを乗せて数ミリ浮かせながら矢印方向にずらして行きます。スペーサーがずれないように注意します。

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17. 裏側です。カムのコロをギヤの上面に乗り上げさせます。ギヤ側面の歯を傷つけないように注意します。乗り上げやすいように金具を裏面から手で押して浮かせると簡単です。

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18. さらにメカをずらして行きます。
オレンジ色の囲みは、出っ張っているバネの端が右に立っている板の(写真上で)左側に来るようにします。板でバネにテンションをかける方向です。
赤の囲みは、丸棒がその下の板に乗り上げて、右の板の曲線状の端面に当たるようにします。

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同時にヘッド周りも矢印のように金属パーツを下に押しながら黒いアームの下をくぐらせます。黒いアームは壊れやすいため注意します。

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19. 上記の3箇所が正しくはまると、このようになります。
メカのベース板が、黒く細長いスペーサーにも綺麗にはまります。難しく感じるかもしれませんが、引っかかっている箇所を少しずつクリアしていけばできます。

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20. 裏側のカムとコロの関係は大体このようになります。カムとギヤにグリスを塗ります。

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21. 黒いプラ部品とスプリングを付けます。バネの力でフロッピーディスクを片側に寄せておくための部品です。
ねじを強く締めすぎるとプラ部品の動きが渋くなりますので、ねじ止め剤(模型用のタミヤ製で十分)を先の方に少量塗り、ほどほどの力で締めます。スプリングの向きもあるので気をつけます。ねじ止め剤が乾いた後もプラ部品が軽く動くことを確認します。

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22. 外していたフラットケーブルを元に戻します。

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23. ドライブユニット固定用の金具を取り付けます。

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24. 青で示す箇所をグリスアップします。グリスは微量でよく、ゴマ粒1-2個くらいの量を基本にすると良いです。(余計なところにグリスが広がってフロッピーディスクにグリスが付着すると大変だということは、想像がつくと思います)。ヘッドを動かすスパイラルギヤにはそれなりの量のグリスが必要なため、拭き取る前に付いていた量を参考にします。
グリスが古くなると保持できなくなった油分が流出したり早く乾燥するため、古いグリスは使わないようにします。

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25. 光センサーのハウジング (2個) がねじ留めでなく接着されている個体では、接着が弱くなったり剥がれていないか揺すってみて確認します。
運用中に接着が剥がれてもアルミカバーで押さえられているため脱落することはないと思われますが、メンテナンス作業の際に衝撃で剥がれてしまうことがあります。剥がれた場合はもちろんのこと、予防的に一度剥がして接着し直すこともお勧めします。
接着剤はエポキシ系などの経年に強いものを使用し、ハウジングの四角い部分をベースプレートに接着します。丸い部分は光センサーがあるため、接着剤を付けないようにします。

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剥がれた例です。

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26. アルミ製のカバーを取り付けます。矢印で示す小さいねじは非常にねじ山を舐めやすいため、ねじ止め剤を付けて軽く締めるだけにしておきます。

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27. ドライブ0と1の消耗を均一化するためローテーションすることをお勧めします。
ドライブ番号 (信号名Drive IDとOption ID)を設定するジャンパー2個を移動して0と1を入れ換えます。もろちんX68000本体に組み込む位置も左右を入れ換えます。

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28. ドライブ2台をシャシーに固定する際は、写真のように下からドライブ1, ドライブ0の順にアルミカバーを上にして重ねて置き、シャシーを被せます。側面のねじを締めるときにシャシーを持ち上げ気味にすることで、相対的にドライブが下側に寄るようにします。(ねじ穴の余裕内での事です)
逆にシャシー内でドライブが写真上側に寄ると、X68000本体装着後にFD挿入口の左側にずれるため、フロッピーディスク挿入の時に筐体に擦れることがあります。

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以上です。